azzurriのショッピングレビュー

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僕が買ったもの、観に行った映画・ライヴなど、要は金を払ったものに対して言いたい放題感想を言わせてもらおうというブログです。オチとかはないです。※ネタバレありまくりなので、注意!

「太陽の塔」ネタバレ有り読書感想。ひねくれきった恋愛小説。

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森見登美彦がすごく好きです。

最初はテレビアニメの「四畳半神話大系」を観たのがきっかけだったと思うんですけど、それ観てすごく面白くて、原作小説も読んでみたい!と思ったのがきっかけで、これまで結構読んでいます。

で、この「太陽の塔」で森見登美彦日本ファンタジーノベル大賞を受賞して、デビューへと至るわけです。

しかし、このデビュー作で、後の森見登美彦のほとんどの作品の要素が詰まっているように思えます。「あぁ、ここが源流なんだぁ」と、わかりやすいくらい原点です。

文章が巧み

もう、デビュー作から森見登美彦の文体が確立されていますね。やはり、村上春樹なんかもそうですけど、早くに自分独自の文体を見つけた人は強いですよね。もう、随所に森見登美彦節が炸裂しています。

ふられた彼女にストーカー行為をして、今の彼氏(っぽい人)に追い返された、というだけのくだりがあるんですけど(ホントに主人公か?w)、それを普通なら情けない感じでちょっと暗い感じで俯き加減で書くと思うんですよ。

しかしこの作品の主人公は、それを居丈高に、しゃあしゃあと述べるんです(ストーカーのくせに)。その感じがむちゃくちゃ笑えて。相当情けないはずなんですけど、すごい偉そうなんですよ、この主人公。

他にも、レンタルビデオにAVを借りる、っていうだけの行為もやたらと高尚な行為に美化してみたり。

あとは、常連になっている色んなお店の女の子の店員さんに、一方的な事実無根の妄想を膨らませ、ドラマティックな気分に浸ってみたり。

そんな、なんでもな(くもなく、割と異常だけどw)い日常を、微に入り細を穿ち、大げさに高尚に書くだけに留まらず、妄想も多分に交えて描いていくのが、すごく可笑しいんです。

とにかく文章が巧みで、情けなくもいじらしい主人公の個性は森見登美彦ならではで、唯一無二のものがありますね。

あと、地名などを意図的に、巧みに取り入れてるんですけど、これがまた見事で。やはり、その地名から来る雰囲気というかイメージというものは確実にあると思います。

しかもこの作品の場合、それが京都なんですね。京都っていうだけで、もう独特の土地のオーラのイメージがあるじゃないですか。

でまた、京都に住んでいる人じゃないと、言われたところで全然わかんない地名がバンバン出てくる。御影通り、白川通り、下鴨泉川町、田中大久保町、四条河原町という具体的な地名、果ては京阪電車叡山電車といった鉄道の名前まで出てきます。

知らない土地の具体性だけでもロマンがあるのに、字面からくる想像力の喚起という効果もありますよね。

なにより、そうやって嘘でもいいから具体的に名前を出して描写していくと、臨場感が出てきて、その効果を狙ってやってるように思うんですよ。これもまた見事な点ではないかと。

また描写力で言うと、この作品のタイトルにもなっている太陽の塔が出てくるシーンがあるんですけど、その描写力がまた素晴らしい。森見登美彦太陽の塔評がホンット、的を射てて、びっくりしました。ひょっとしたら、太陽の塔の評論だけではなく、それは岡本太郎に対する鋭い評論ですらあるかもしれない。それくらい素晴らしかったですね。

モラトリアムは理想郷

そしてそんな日常が、お前ホントに大学生か?と疑いたくなるくらい中二なんです。さっきも言ったように、とにかく妄想を爆発させまくって、そこに安住している。飾磨という友達の「我々の日常の90%は頭の中で起こっている」は、もう名言中の名言ですね。

しかし、そんなモラトリアムでありながら、自由な大学停学時代の日常は、ある種とても理想郷的で、なんともうらやましく感じてしまうんですよね。ここらへんは、又吉直樹の「火花」にも通じるところがあるような気がします。

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後の森見登美彦作品に出てくる、どうしようもなくも愛すべき京大生の友人が早くもこの作品で総登場するような感じなのですが、その紹介パートがまた可笑しくも素晴らしくて。

ここらへんの人物描写や日常の細かい描写が非常に実存感があるんです。それでいて物語的に一息つけさせるというか、緩急を演出しているんですね。

それで、やはりすごくツボなのが、この人たち、ホンットにモテないところですねw 他人ごとにはまるで思えなくてw

クリスマスは恋人の季節、っていう日本特有の風潮を「クリスマスファシズム」と呼ぶなど、モテない男連中のひがみが満載でありつつ、それでいてどうしようもないパワーもあるよくわからんリビドーに満ち溢れているんです。

この感じは後の森見登美彦作品にもほぼ一貫して見られるモチーフであり、それが既にデビュー作にしてほぼ確立してるんですよね。ひょっとしたら、それが森見登美彦の全てかもわからんですねw

そして、それと同時に、将来に不安を抱く若者の苦悩の色もですねー、物語が進むにつれ、徐々に濃くなっていくんですね。で、あからさまにそれを描くんじゃなくて、ユーモアの合間に忍ばせる感じで、そのヒュッと牽制球を投げられる感じが、逆にこう、胸にスッと入って来るというか。そういうところも、上手いと思います。

虚実入り乱れるファンタジー

そんな感じで、モラトリアムな学生の生活を時に大げさに時にリアルに描いているのですが、物語全体としては、虚実入り乱れる風変りなファンタジーといった感じで、これがまた面白い。リアルの中に入り込むファンタジーというか、そのバランス感が絶妙なように思います。

物語の核は、主人公が水尾さんという女の子とヨリを戻す、ということなんですけど、それが徐々に徐々に進んでいくんですね。全体としては「後退」していくというか。どんどんどんどん水尾さんが遠ざかっていく。そして、水尾さんの謎が深まっていく。

元カノの彼氏かと思われていた男の正体(遠藤)がわかっていったり、後輩の近所に通るはずのない叡山電鉄が通ったりと、物語の革新に迫る描写が、主人公の下らない日常(笑)の間に徐々に徐々に現れてくるんです。

そして、主人公自身も叡山電車を見かけ、水尾さんが出演する謎の映画を鑑賞し、遂には主人公が水尾さんの夢の中へ入ったりと、虚実が渾然一体となっていき、幻想小説的な色合いが濃くなっていくのです。

この、徐々に非日常の世界に読者を連れて行く感じが、非常にいいんですね。

ただ一つ難点

しかし、暴漢から助けてくれたとはいえ、美味しい珈琲を振舞ってくれたとはいえ、作中ではものすごく嫌な、ある種ライバルであるはずの遠藤に、やすやすと、自分が未練タラタラの水尾さんとの恋路を応援するのは、ちょっと意味がわからなかったです。

そこに何か明確で納得のできる理由づけや動機があれば良いのですが、それがわからなかったです。唐突なんですよね。

だから、ここだけはいただけない。読んでいて気持ちが乗っていかない。しかも、水尾さんへの強烈な未練は、この物語の通奏低音のようになっているので、とても重要なところだと思うんです。

それなのに、主人公の行動は理解しがたいものがある。ここは大きなマイナス点だと思います。

クリスマスを台無しにしてやる

で、この物語の一つの大きなクライマックスは、クリスマスイブのええじゃないか騒動なんですけど、それはどうやって起こすのか?というのが読んでいてポイントでした。

そんなこと言って、また言ってるだけで起こせないんじゃないのお?と思って読んでいたんですw ホント、この人たちの日常はまさに「我々の日常の90%は頭の中で起こっている」でしたからねw どうせまた何もできずに終わるのだろう、と高をくくっていたのですが。

そしたら、主人公の友人・飾磨の、何気ない「ええじゃないか」の一言から大騒動に発展していくんです。これがまた、然もありなん、といった感じで無理なく読めましたねぇ。なんか、妙なリアリティがある。

またこのクリスマスイヴにええじゃないかをブチ当てる発想がまた秀逸。クリスマスを台無しにし、破壊するのにこれほど適したものはない。

僕もクリスマスファシズムはなんとか打倒したいと思っている派なので、ここのクライマックス、クリスマスを破壊する(しかも平和的に、お祭り的に)感じは本当に胸がすく名シーンでした。

ラストが粋すぎる!

そして最後の最後、本当のクライマックスです!

主人公の恋愛否定は論理的にも高まりを見せ、残りページも最後の見開きとなり、このまま振られたままで終わるのかな、と思ったていたら、さらりと大逆転(だと思う)!

そのさりげなく、何気ない感じ、そして詩的とすら言え、こう胸にさわやかにストンと落ちるという。

そして、最後のおそらくはハッピーエンドを、そんなもの見たくないだろ?という感じで一切描かない。そうとは匂わせるものの、最後どうなったかは敢えて書かない。

そして、最後の一文、冒頭の言葉をちょっとひねって終わる。

こういう余韻の弾き方、突然に、それでも印象的に胸にグッと切なく来る感じで終わる余韻の弾き方、これはもう本当に切なく、爽やかで、粋です。

これは幻想小説でもなく、青春小説でもなく、恋愛小説だったんですね。

こんなひねくれた恋愛小説はまさに唯一無二!

しかし、解説が本上まなみで、切ない余韻をブチ壊しにしてくれたのは、意外と森見登美彦の罠なのかもしれない。


 

 

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