「メッセージ」を観てきたのですが、いや、これはかなり良かったですね。
緊張感がありつつも静かなSF。わかりにくいけど、わかる。
計算された映像美、ある種哲学的な内容、作品の世界観を更に構築する音楽、そして現代の人類に対する警鐘。
派手なドンパチだけじゃない、こういうSFもあるんだよ、という映画だと思います。
予告編
人の心を描いたSF
「クローンは故郷を目指す」のパンフレットに書いてあったヴィム・ヴェンダースの「人の心を描いたSF」という言葉を思い出してしまいました。
この作品もまさにそんな感じ。我が子への愛情の覚悟を問い、そしてそれに応えた。
ちなみに個人的にはタイトルは「メッセージ」や原題の「Arrival」よりも原作の「あなたの人生の物語」の方が良かったように思います。
映画を観た今、その方が最後もっとグッときたように思いますがどうでしょうか?(^^;;
時間の流れ方が変わる
この作品に登場するヘプタポッドと呼ばれる七本足の宇宙人(だと思う。作中では厳密にそれも定かではない)は人間とは時間の概念が違い、物理的には時間を超越してはいないとは思うけど、概念的には時間の流れが一定ではない、という存在。
そしてどういうわけだか彼らと交流していくうちに主人公の女性も時間の流れ方が一定ではなくなっていく。
もちろん、物理的には一直線に流れているのだけど、断片的に未来が見えるようになる。
しかもその見え方も順を追って未来が見えるわけではなく、かなりランダムに見えていて、そこからも彼女の意識の上で時間というものに一方向的な流れがなくなっていく、ということがわかる。
もっと言ってしまうと、「未来」という概念とも違う感じがする。観ていて、なんとなくふわふわしているんです。
ヘプタポッドの文字
映画の中で非常に重要な要素となるヘプタポッドの書く文字の形って円を基本としたものなんだけど、これもまた彼らの時間に対する概念の象徴のように思います。
彼らの中では時間は直線的に流れていない。どちらかというと過去も未来も繋がっている。言ってみれば円環を成している。
翻って考えてみると、僕らが使っている「人間の」文字は右から左、左から右、上から下、と方向は違えど直線に進んでいく。
これもよくよく考えたら「過去から未来へ」という一方向的な時間の流れの象徴のようにも思えます。
日本人の時間の概念
そんな感じで「時間」というのがひとつのキーワード、テーマになっていると思うんですけど、よくよく考えたら、我々日本人(というよりは東洋の人間)の時間の概念って、直線というよりは円環を成している(或はいた)のでは?と思います。
明治時代以降、飛躍的に西洋的な考え方が輸入され、広まっていった結果、それ以降の日本人は時間や人生について、直線的に捉えていると思うけど、それ以前はもっと円環的に捉えていたのではないかなぁ、と。
例えば「生まれ変わり」という考え方なんかはそうだと思う。そういう意識って今の若い子くらいになっちゃうとちょっとわからないけど、我々(アラフォー)くらいまではまだどこかしらに残ってると思うんですよね。
日本人って色々なものを輸入してそれを改良したり混ぜたりするのが得意だし、そもそも日本語って粘着語だから、色んな言語の単語をそのまんま取り入れて割と自然な日本語にまで咀嚼できちゃう。
ハイブリッドなものを作り続けて自分たちのものにしてきて、果ては時間や人生の概念もごちゃまぜなものにして生きているのかなぁ、と思うと、なんか面白い。
墨と筆
そう言えばヘプタポッドの文字って墨と筆で書いたような形だったけど、あれも多分「直線的ではない時間の概念」を表現するために「円環的な時間感覚」の東洋文化の筆記用具にヒントを得たのかもしれませんね。
でも、そうだとすると「円環的な時間」を生きていたはずの東洋人の文字が「上から下へ」という直線を成しているのはさっきの話と矛盾するような…(^^;;
ま、まぁ、我々には未来は見えないですから…w