この間、「おおきく振りかぶって」の四巻と「逆境ナイン」の一巻を読んだ。両方ともすごく面白いマンガだけど、同じ野球(しかも高校野球)を題材としてこれほどまでに真逆のマンガになるのかと思わせるくらい真逆。ある意味竜虎。
「おお振り」は一見、結構ユルい感じで描かれているが、その実、中身は野球という「スポーツ」の魅力を余すところなく伝えようとするかの如く、それはもうガチガチの真剣勝負で野球が非常にリアルに描き込まれている。緻密な下調べやフィールドワークをしたであろう作者のこの作品に対する情熱がストレートに伝わってきて、ものすごく「熱い」マンガであると思う。
一方、「逆境ナイン」だが、表象的にはかなり熱い、劇画調で描かれているが、野球マンガとして、その中身は「ない」と言っても過言ではない(いや、それはかなり言いすぎか?)。野球部の命運をかけた試合は不戦勝、精神的に吹っ切れたエースが立ち直る場面では、打者を討ち取る過程が描かれることなく、いきなり(つーか、ページをめくった次の瞬間に)見開き一ページを割いての大写しで三振を取って試合終了。この脱力、肩透かし! おそらく、島本和彦は基本的な野球のルールくらいは知っているだろうが、野球という「スポーツ」に関しての知識はほとんどないのではないか。彼はこのマンガで「野球」というよりは、とにかく「熱さ」を描きたかったのではないだろうか。なぜなら、このマンガでは「野球」は中身のない「熱さ」の道具だと思うからだ。野球である必然性はないのだ。というよりは、このマンガ自体「熱血野球マンガ」のパロディなのではないか? そこが「おお振り」とは最も遠くに位置する野球マンガである所以だと思う。
方や、血の通った「本物」のスポーツとしての野球。方や、中身のない熱さの「パロディ」としての野球。
しかし、「逆境ナイン」のあの説得力はなんだろう? 読んでいるといつの間にか自分も熱くなっているのはなぜだろう? 中身のなかった熱さがいつの間にか中身を伴った感動に変わってくるから不思議だ。そこにこそ、このマンガの面白さがあるのだろう。
とにかく、この真逆の二つの野球マンガ、マジで面白いです!