やはり夏のクソ暑い時期には、クソ暑い設定の小説の読むのが臨場感も増し増しで良かろう、ということで読んだのがこの「ロスト・ワールドージュラシック・パーク2」!
マイクル・クライトンの名作「ジュラシック・パーク」の続編であります。
「ジュラシック・パーク」は映画も公開されてバンバン大入り超満員。今日まで語り継がれる名作となったわけですが、原作小説の方も傑作でありました。まぁ、原作が良いから映画になったんだけど。
そんなわけでヒットが出れば当然の如く続編が作られるのがハリウッドの自然の摂理。御多分に漏れず、この「ジュラシック・パーク」も続編が作られ、それがこの「ロスト・ワールド」なわけです。
しかしこの続編、映画と小説、両方共観たり読んだりしたことのある人ならわかると思うのですが、「映画原作」と謳ってはいるものの、この小説、映画とは結構違ってます。
それもそのはず、この続編、映画は映画、小説は小説で、同時進行で各々別個に作っていったらしいのです。
随分変わった企画の通し方ですが、残念ながら映画の評価は散々(俺は好きだけど)。でも、こちらの小説の方は個人的にはなかなか面白いと思っています。
またこの小説中の登場人物・レヴィンが、白亜紀の生物が生き残っていてもおかしくない、と言うくだりがあるのですが、この小説の更に後の現代の視点から見ると、実は鳥は恐竜であることを知ってるので、なんというか、感慨深い。
時の流れを感じますねー。
登場人物
今回も前回の「ジュラシック・パーク」同様、非魅力的なキャラが大挙して出てきますw
このシリーズは本当に非魅力的なキャラばっかり出てきますね。
今作品のガキどもも、前作のレックスに比べればはるかにマシだけど、やはりクソガキであることには変わりないです。
やっぱティムはよくできた子だったんだなぁ、ということが逆に浮き彫りになる感じですかね。
レヴィン
というわけで、先ずはレヴィンですかね。古生物学者の新キャラで、一応主人公格なんですけど、まー魅力ないw
本当にマジクソ野郎で、読んでて呆れるほど。トラブルメーカーのくせに(トラブルメーカーだから?w)心配してくれた仲間(と言ってよいかはわからないが)が助けに来ても「なんで来たの?」と感謝するどころか、むしろ馬鹿呼ばわりするくらいの勢い。
まぁ、レヴィンにはレヴィンなりの言い分があるんだろうけど、お前が連絡もなしに突然消えるからだろう!ということをわかっていない。やはり親しき仲にも報連相有りという感じですかね。そこらへんの人間関係のイロハのイが理解できない、そんな人。
相当優秀な人らしいんですが、異常に優秀な人って、えてして何かが欠けている場合が多いけど、その典型かもしれませんね。
また、描写として、レヴィンの病的なまでの綺麗好きが明るみに出たりもして、さもありなん、といった感じ。
やっぱりどこか異常な感じがする、という、こういう性格づけ的な生活レベルでの細かな描写はさすがですね。
ケリーとアービー
で、次は子供たちかな。今回登場する子供は秀才少女のケリーと天才少年のアービー。出だしは、前回と違って二人ともなかなか可愛らしいのかなー、と思ったんですけど、やっぱりそんなことはなかったですねw
二人とも少なからず問題がある子で、アービーは天才故か世間とのズレがある感じです。また、計画が狂うと思考停止になってしまいます。この性格付けも然もありなん、といった感じで妙にリアルなところが上手い人物造形ですね。
優れすぎてる人は何かが足りない、というのはレヴィンと共通しているところかもしれません。
もう一人の子供であるケリーも、勤勉な、なかなか頭の良い子ですが、いかんせん自己中心的で、自分が絶対的に正しいと思い込んでるやっかいなガキです。
アービーはまだ可愛げがありますが、ケリーの方は物語が進むにつれ、徐々に読んでてウザくなってきますw ああ、やはりティムはよく出来た子だった。
ドジスン
そして極め付けの非魅力的登場人物はドジスンですかね。まぁこの物語の悪役なので当り前なのですが。もう、殺人未遂とかしちゃったりしますからね。もう悪い悪い。
実は前作でも、悪事の手を裏で引いていたのはこの男で、事の発端を起こしたハモンドよりも、より直接的な悪であったように思います。
ドジスンの手引きがなければパークもあそこまでひどいことにはならなかったかもしれません。それだけに、物語にとっては重要人物ということになるんですけど。
でも、本来、それ故に物語的には粛清されなくてはいけない人物だったですが、のうのうと生き延びたんですよね、「ジュラシック・パーク」では。
ひょっとしたら、続編を書くのは既定路線で、その時にドジスンを粛清しよう、と構想していたのではないか、と邪推してしまいます。それくらいの悪党ですね。
ドック・ソーン
ひょっとしたらこのシリーズ初の魅力的なキャラかもしれません。それがドック・ソーンです。
まぁ、マルカムも相当魅力的だと思いますけど、ちょっと態度が尊大すぎるきらいがあり、残念ながら人好きのする感じではないですかねー(そこがカッコよくもあるのですが)。
しかし、このドック・ソーンという工学博士は、荒々しくもさっぱりとした、このシリーズにはいなかった魅力的な好漢です。
彼曰く、歴史も心理学も知らなければ、人のためになる設計はできない、いくら理論が完璧でも人が絡むとめちゃくちゃになる。
机上の空論ではなく、実践の重要性、総合的な、全人的な教育を重視している姿勢がよくわかります。
また、今回の子供達やレヴィンの弱点をも登場早々に看破している点もカッコいいですねぇ。彼もまた、マルカム同様、マイクル・クライトンの分身的キャラなのかもしれません。
で、今回もまたイアン・マルカムが登場するのですが、前回も出てきたし、割愛させていただきます。
描写
とにかく細部の描写が細かく、具体的!
そこは流してもいいんじゃない?と思うところも、これでもか、とばかりに描写してきます。そこがリアリティというか、実存感が表れているところかもしれません。
やはり恐竜を甦らせるという突拍子もないフィクションなのだから、小説世界の作りは細かくなくてはいけないのでしょう。
この細かい描写、設定が「恐竜が現代に甦る」ことに説得力が出るのですね。
そういうところは前回の「ジュラシック・パーク」を引き継いでいる点だと思うのですが、一転前回とは異なるところがあって、それは最初の恐竜出現シーンのところです。
あんまりもったいぶった感じはないんですね。しかも、グラント博士やティム君のような恐竜マニアはいないので、それほどの感動もありません。
今回は2回目だからなのでしょうかね。前回はもっと、こう、「練りに練った」感がありました。
なんせ、いるはずのない恐竜が出現するわけですから、謂わばこの小説の最も大切なシーンです。でも、割とあっさり。
2回目である今回の「ロスト・ワールド」は、「恐竜ありき」だからでしょうか。もう一回もったいぶっても意味はないのかもしれませんね。
ただ、島の全景を見る場面は、サバンナを見渡すような美しさと壮大さを感じさせます。今回は恐竜を、太古の、ある意味ロマンティックな存在というよりは、「動物」として描こうとしているのかもしれません。
そんなこともあってか、今回は恐竜を観察するシーンが面白い。
「こうだったんじゃないかな」を非常に理詰でリアルにシミュレートしています。それも実際のサバンナの動物の行動を参考にしてるっぽいので、説得力もある。
また、化石から推測することは連続写真を見てるようなものなのに、いつしかそれが現実のものと錯覚してしまう、という記述があるのですが、古生物研究が陥りそうなことかもな、と思いました。と言って、他にじゃあどうすればいいんじゃ、という感じですが…。
あとはですねー、今回は「ちょっとだけ近未来」の技術を投入した、秘密兵器的なマシンが登場。ちょっとだけだけど、来たるべき近未来SF、といった感じもあるところが、前回とはまたちょっと違うエッセンスですね。
マルカム先生、今回も大活躍
やはり、今回もまたマルカムのセリフが面白い!
しかも今回はいきなり始まるんですよねぇ。恐竜の絶滅は行動の変化が原因ではないか、とブチかまします。
曰く、カオスの縁より遠いとシステムは硬直化し、画一化する。近ければ、縁から落ちてしまう。
カオスの縁とは、適度に革新性を持ちつつ、適度に安定性を持っている状態らしいです。
いやあ、なんだかよくわかんないけど、なんとなく納得します。このマルカム先生の不思議な説得力。なんとなく分かった気になって、なんとなく頭が良くなった気分に浸れるので、気分いいですw
また、マルカムは絶滅のメカニズムについて、外的な要因よりも生物の行動の変化が絶滅に関与するのではないか、と言います。
マルカムは化石からは想像もできない「事実」を目の当たりにして(フィクションだけど)、恐竜はあれだけ複雑な行動をするのだから、やはりその考えは正しいのではないか、との結論に至ります。
例えば、氷河期の渦中にあっては絶滅は少ないんだそうです。でも、氷河期が終わりに入り、氷が溶ける時、つまり「二度目の変化」が起こる時、絶滅が起きるというんです。
二度の変化は相当な負担になる、ということですね。なるほど(←多分、よくわかってない)。今回も面白い論がいっぱいです。
マルカムの元カノ、恥をかく
それとは別に、ちょっと苦笑してしまう思想もありまして。
今回、サラ・ハーディングという、マルカムの元カノが出てくるんですけど、まぁなかなか、マルカムと違ってワイルドで肉体派な面もある、知的で、まぁなかなか魅力的な女性なのですが、ちょっと鼻持ちならない思想傾向があるのも事実。
どういうことかというと、この人、ハイエナを主に研究してるらしいんですけど、その研究対象の好きさ余って、あまりにもハイエナ上げにするためにライオン下げにするんですね。これが苦笑もので(笑)。
俺やっぱり、単純にハイエナは汚い下劣な肉食動物、っていうことでいいと思うんです。それが正当な評価だと思います。
ライオンがハイエナの仕留めた獲物を横取りすることを称して「下劣」と毒づく場面があるんですけど、それを言うなら、ハイエナなんかはチーターその他の肉食動物から獲物を横取りします。
更に言うなら、「下劣な」ライオンからも横取りしようとさえします。その事実をわかっていない(テレビで見たことがあります)。
思うに「人気者のライオンよりも、嫌われ者のハイエナの魅力がわかっちゃう自分スゲー」アピールをしたかったのでしょう。
しかし、狙い過ぎが見え見えで、失笑ものなんですね(笑) むしろ哀れというか…。
ストーリー
前回は「ジュラシック・パーク」という謎のテーマパークは何か、というのが物語前半の肝だったのですが、今回は「サイトB」がそれに当たります。
「サイトB」という施設が何なのか、それを中心にこの上巻は物語が進んでいきます。
そしてそのサイトBは、かなり闇の深い施設らしく、実はジュラシック・パークはその上澄みでしかなく、その暗部が今回の話っぽく進んでいきます。
そして今作では子供が活躍する場面が多いですね。
子供が大人に黙ってついて来てしまうというジュブナイルの王道的展開でもあるし、加えて上巻はあまりグロ描写が多くありません。
それを考えると、映画の成功もあってか、今回は多分に子供が読むことを想定して書かれているような気もします。
アービーなど、大人の能力を凌駕する子供の存在も、いかにも子供が好きそうな要素です。
だから、ある意味今回は「子供向け」と言って言えなくもないと思います。とはいえ、子供向けと言うには難しい話がいっぱい出てきますが(^^;;
また、マルカムが、前回あれほどまでにパークの建設に反対していたのに、なぜ今作でまた恐竜の島に来たのか、初めは理解に苦しみました。
しかしそれは、「絶滅」の謎を解くためだったのです。絶滅はなぜ起こるのか。
よく考えれば、そのメカニズムについては議論が喧しいですし、恐竜の絶滅ともなれば、更に議論は激化します。
よく言われる隕石(小惑星という説もある)衝突説も、有力ではあるらしいですが、決定的かというと、そうとも言い切れないものであるらしいです。
現代に蘇った恐竜を見れば、その謎が解けるかもしれない。マルカムはその一念で恐怖に打ち勝って「しまった」のです。
純粋な科学的興味は時に危険を顧みることができなくなるんですね。誰かが言ってたけど、勇気とは過大評価された価値観念、ということを思い出してしまいます。
そして、サイトBの恐竜は成体がいない、と妙なことに気付きます。
さあこれからどうなるか?! 次回下巻、乞うご期待!