「好きだ、」という映画を観て来ました。なかなかにして恥ずかしいタイトルですが、映画の方は素晴らしかったと思います。僕は映画は覗きであり旅であると思ってるんですけど、この映画まさに覗きであり旅であったかなぁと。また、すごくリアルに映画の中に入り込めたような気がします。
最初やっぱりすごく印象的だったのは、全体を覆う「くすんだ青」。この感じがすごく良かった。これは予告編を観た時から思っていたけど、それを観たくて観に行ったところもありました。
空の印象もすごく強いですね。空がすごく高くて広い。登場人物の心情の比喩なのかどうかはよくわからなかったのですが、頻繁に挿入される空はともかく印象的ではありました。あれで映画の中の世界に入りこめたような気がします。映画の中の人物と同じ風景を観ている気になれるというか。
それから、音楽が菅野よう子ということで観にいったところもあったんだけど、BGMが全然ない。BGMらしいBGMが流れたのは1シーン、ピアノ曲が一曲あっただけでした。あとは主役の男の子が弾く下手なギター(初心者という設定)だけ。これもほとんどワンフレーズのみ。と言っても全くの無音ではなくて、むしろ音に溢れています。風の音や川の音や足音とか、とにかく音で溢れかえっています。だけど、これが素晴らしかった。効果音を入れましたって感じじゃなくて、自然な感じだった。もちろん後から音を被せてると思うんだけど、撮影した時にそのまま音も拾ったって感じで、まるで記録映画のような雰囲気。この音も映画の中に入りこめた一因であると思います。こういう音ってすごく大事ですよね。ハリウッドのあの脅迫的な音楽の洪水には辟易してしまいますからね。
あと、人物を撮る時、逆光が多かったんですけど、これもまた、すごく、綺麗だったと思います。とにかくこの映画を撮った人はすごく映像的、というか音も含めた映画的にセンスのある人だと思います。
それから台詞の感じがすごくリアルというか生々しかったですね。「私、演じてます」っていうのがあんまりない。後でパンフレット読んだら、基本的には台本みたいなのなかったみたいですね。シーン毎にキーワードみたいなの渡されて、即興じゃないんでしょうけど、役者がその場その場で喋ってたみたいです。あと、長回しが多かった。いやあ、役者追いこんでますねぇ。そういう脚本の作り方は「監督兼脚本」ならではですね。役者さんもみんな好きな人ばっかりで、それも良かったですね。
ベタな表現はほとんど使ってないので、すごいわかりやすい感動とかはないんですけど、言いたいことや人物の心情を直接語らず、映画全体で観ている人にわからせている感じで、ジワジワ来る感じですかね。場の設定というか、ロケ地もすごく良かったと思うので、非常にいい「旅」そして「覗き」が出来たなぁという感じです。