「ゴジラの息子」に続き、「ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃」を観ました。東宝怪獣超低年齢層子供向けシリーズといったところでしょうか。
まぁ、そんな感じですので、正直まるで期待していなかったのですが、まぁ、実際そんな感じの映画でしたw
ただ、そんな中でも実はなかなかエグい仕掛けのある映画なのかな?とも思った次第であります。
昭和のゴジラはなかなか捨てがたいね。
予告編
「ゴジラ対ヘドラ」への布石?
冒頭、工場地帯や都市の様子を遠景で映すシーンは印象深かったですねぇ。高度経済成長期であるこの時代の日本、工場による公害真っ只中であることがよくわかるし、後の「ゴジラ対ヘドラ」への布石のようにも感じました。
オープニングの歌があるんですけど(おそらくは、先んじて子供のための映画に振り切ったガメラの作りを意識したものと思われます)、公害を評して「こっちの方が怪獣だ」というような歌詞が歌われているんですね。まさに、
かーえせー かーえせー♪
の「ゴジラ対ヘドラ」!
また、殺風景な工場地帯や町並みは、どこかディストピア映画を彷彿とさせるものでありました。
あとはですねー、町を走る車のデザインがやはり良くて、道行く人々と相まって、上述の公害描写などとも相まって、貴重な記録映像としても価値があるように思います。
やはり映画って、歴史ですよね。それも動く、映像の歴史。映画には娯楽としての価値以外にも、歴史の証人としての価値もあると思います。
意外としっかりした作り
また、主人公の男の子はいわゆる「鍵っ子」で、父親と母親は仕事で不在。そういう社会状況をも色濃く反映させてもいました。
主人公は兄弟もいない一人っ子で、友達とも上手く関われず、いじめられっ子でもあります。ミニラをそんな主人公の比喩として同一線上に並べてみたり、作りとしてはよく考え込まれていると思います。
また、そういった鍵っ子で一人っ子の子たちの、心の中の友達というか、そういったものに製作者はミニラになって欲しかったのかもしれません。
あと、冒頭から、後の伏線となる銀行強盗二人組の話題を随所に、割と自然に挿入している点も上手いと思いました。結構脚本の構造としてはキッチリ作ってある印象でした。
他に良かった点としては、主人公の男の子の良き理解者として、お隣の部屋に住んでいるおもちゃ作りのおじさん(おもちゃメーカーの開発担当の人だと思う)を演じた天本英世が実に良い味を出していたことですねー。
隣のおじさん、というより、隣の兄ちゃん、といった風情すら醸し出していました。そういう子供の味方的な役柄を死神博士を演じた天本英世が演じるのが、なんとなく嬉しい感じがします。それに、お洒落だったし、背も高くスラッとしていてカッコ良かったです。
夢オチエクスキューズ
上手い作りと言えば、今回のゴジラたち怪獣はこの少年が作り出した空想で、物語世界では怪獣は存在しないことになっているらしいんです。
で、このことは物語早々に明かされます。夢オチであることを最初に宣言することによって、怪獣たちの擬人化や、ミニラが少年と日本語で会話したり、等身大だったり、かと思えば突然巨大化したりといった、言ってみれば「子供騙し」の演出を思い切ってできる仕掛けになっているわけです。
そういう変なところがあっても、「夢オチですから」というエクスキューズで乗り切ってしまう。上手いですよね。
子供のためのゴジラ映画
だからこの作品は、そういった夢オチも含めて、もう明確に子供のためにと振り切って作られたものなのでしょう。
子供の好きな怪獣を過去映像も含めてふんだんに登場させ、ミニラを子供の代表として怪獣と戦わせたり、そもそも主人公の男の子が怪獣島に入り込んだり、それはまさに当時の子供の夢でもあったはずです。
しかし悲しいかな、そういった子供のために作られたものを子供は喜ばないのです。そして怪獣ブームはやがて終焉を迎えることになります。
ただ、子供と一口に言っても年齢層は実は様々で、小学校低学年以下なら、むしろ喜んでいたかもしれませんね。僕もそれくらいの年齢の時は、むしろ子供向け志向を強めたウルトラマンタロウが一番好きだったりしました。幼稚園くらいの子なら尚更かもしれない。
ただ、アマプラでは13歳以上推奨でした…。これを幼児に見せないでどうすんだァ! それこそ、観る奴いなくなるんじゃないですかw
よく考えたらエグい作品
そんな感じでですね、やはり今の自分にはあまり楽しめるものではなかったですねー。でも、それは仕方のないことだとも思います。
ゴジラシリーズ中、最も子供向けに作られた映画だったので、幼稚園や小学校低学年の時に観ていたら、また違った感想を持っていたかもしれない、とも思います。
ただ思ったのは、上述したように、この映画って、ゴジラシリーズ唯一『設定的に』怪獣が存在しない世界の話なんですよね。それはつまり、怪獣映画、しかも子供に向けた映画でありながら「怪獣なんてこの世にいないよ」と宣言している映画でもあるんです。その姿勢って、実は子どもをものすごく突き放してるんですよね。
だから、言ってみれば、この映画は子どもを意識しまくった、子どものための映画であることは明白なんですけど、この映画を見てくれた子どもに対して、「怪獣なんかいない。早く大人になりなさい」と言っている映画である、とも解釈できるんです。
つまり、怪獣を楽しみに映画館に足を運んだ怪獣少年たちに冷や水をぶっかけてる、とも言えるわけです。
そう思うと、かなりエグいですよね。
実際、主人公の男の子は、最後は「自分の中の」怪獣に背中を押されながら、自分ひとりで強盗犯に立ち向かっていきます。
この映画は、怪獣に夢中な子供に、怪獣からの卒業を促した映画でもあるのでは、とも思ってしまいました。