azzurriのショッピングレビュー

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僕が買ったもの、観に行った映画・ライヴなど、要は金を払ったものに対して言いたい放題感想を言わせてもらおうというブログです。オチとかはないです。※ネタバレありまくりなので、注意!

「バハールの涙」ネタバレ有り感想。女性記者は女性戦士の分身?!

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予告編を観て、「これは観に行かなければいけない」と思ったのが、「バハールの涙」でした。

ISに夫を殺され、息子を奪われて少年兵の教育を受けさせられ、自らはISの女郎屋に売られた主人公の女性、バハールが、その女郎屋から逃げ出して女性部隊のリーダーになり、ISと戦う、という話です。

まぁ、最後は一応のハッピーエンドを迎えるのですが、なんともやりきれなくありつつも、芸術度の高い映画でもあったように思います。

女性も戦わなくてはいけない、戦わずにはいられない、事実であろうそのことに、何とも言えない負の感情を持ちながら観ました。

女性は強く、賢く、しなやかだ

バハールを女郎屋から逃がす手立てを取ったのは、たまたまバハールがテレビを見ていた時に、女郎屋へ売られた女性たちに向けてテレビから語り掛けた代議士の女性でした。

「自分が女性たちを売春宿から買い取ることも辞さない」とまで言い放つんですね。インタビュアーに「ISに資金を渡すことになる」と言われると、その代議士は「女性がこのまま犠牲になってもいいのか」と返すんです。ここのやり取りは迫力ありましたね。めちゃカッコ良かった。こういう民に寄り添う目線というのは、政治家に最も大事な資質だと思うのですが、どうでしょうか。

ちなみにこの代議士は、バハールのフランス留学時代の教授だそうで、懇意にしていたそうです。バハールは本来は弁護士で、フランスにも留学するくらいインテリだったんですね。女性部隊のリーダーはかつてはインテリの弁護士であった、という出自は考えさせられます。

それにしても、ここでも女性は強いです。バハールが所属する部隊は、女郎屋に売られた女性たちで作られた部隊なのですが、彼女たちは戦時中でも歌い、踊り、その中でもささやかにお洒落を楽しみ、楽しみを見つけていたんです。彼女たちは武器を獲りつつも、女性であり続けたんですね。

また、女郎屋から逃げる場面では、一人身籠った女性がいました。そして国境(だと思う)を越えたところで出産するんです。その国境線を越えるまでは危険だということで、ずっと我慢してたんですね。

このシーンは、脱出の困難さと女性の強さ、そしてある種の神聖さ、生命の力強さを表していて、素晴らしい迫力がありました。

冒頭が秀逸すぎる

物語は基本的にはフランス人女性記者・マチルドの目線、正確に言うと、マチルドの回顧録という形で語られます。

その冒頭、白っぽい映像の中、バハールが寝ています。とても綺麗で、彫刻のようですらある。しかし、彫刻のように感じ、白っぽい映像だったのは、砂を被っていたからです。その砂は爆風によるものです。あまりにも凄まじい爆風なので、全身白になってしまったのです。

そこで女性記者が悪夢にうなされたように目を覚まします。

そしてそこから状況説明があり、移動手段がなく、足止めを食らっている、というモノローグから映画は始まっていくのです。

女性記者は過去にあった出来事を夢で見、そこから過去を振り返っていたのです。

そして、この冒頭のシーンがラストへと繋がるんです。ラストは主人公が自分の子供を助けだし、一応のハッピーエンド的ではある。しかし、バハールは仲間を三人、殺されました。

この、倒置法的に置かれた冒頭の映像が何とも美しく、でもその美しさは非常に悲劇的なものであったんです。これは女性と、女性が置かれた状況を端的に表しているようだし、絵的にも非常に綺麗。そして、映画全体の流れとしても非常に効果的であったように思います。

本当に、芸術度、メッセージ性が高く、秀逸な冒頭のシーンであったと思います。

わかりにくい構成には意味がある?

マチルドの目線で進むので、バハールとの会話の中でシーンがよく過去に飛びます。だから、結構観ていてわかりにくくはありました。

でも、回想シーンが会話である、と考えれば、物語の流れとしては途切れていない。会話ってあっちこっち飛ぶじゃないですか。

このあたりの作りもうまいと思います。意外性のある作りは、考えながら観なければならず、目が離せなくなるからです。自然、集中して観ざるを得なくなる。こういうメッセージ性の強い映画には、特に大事な仕掛けだと思います。

女性記者は女性戦士の分身?

バハールはマチルドに真実を伝えて欲しい、と言います。

でも、マチルドは「真実は何も伝えない、みんな無関心。ワンクリックしてそれで終わり。人が望むのは希望と明るい未来。悲劇的なものには蓋をする」みたいなことを言うんですね。このセリフは刺さりました。

このことは、普段、色んなメディアとかSNS見て、なんでみんなもっと関心持たないんだろ?と疑問に思いもするんですけど、正直自分もこうだよな、と自戒の念にもかられるという、なんとも複雑な気持ちにえぐられる感じです。

そしてマチルドは、だから自分は出会った人のために書くのだ、と。マチルドはバハールに、あなたのために書く、と言うんです。マチルドの書く動機は、非常にパーソナルなものだったんですね。大義名分とか、真実を明らかにする、とかそういうんじゃない。不特定多数のためなんかじゃない。目の前のあなたのために書く。

何か、二人が、すごく繋がっているように思います。

また、マチルドには娘がおり、夫は戦争の取材中に地雷で亡くなりました。そのことにバハールは自分と似た境遇を感じ、マチルドの覚悟も見て取ったのだと思います。だから、バハールはマチルドに真実を託し、マチルドはバハール個人のために記事を書くのではないでしょうか。

また、マチルドが言った「戦士でなくても死ぬ」というセリフがあったのですが、多分、マチルドは、バハールは自分だ、或いは、自分はバハールだ、という思いもあったのかもしれない。この台詞はそういうことも表しているようにも思います。