ベニチオ・デル・トロがすごい好きです。
「ボーダーライン」という映画を観て、そのふてぶてしい態度や表情に加え、何かやらかしそう、いや、やらかした後のようなヤバさ、怖さを湛え、それでいて、揺るぎない信念を感じさせる。そんな感じの演技がめちゃカッコ良くて、非常に好きな俳優となってしまいました。
そのデル・トロが出てるということで、「ロープ/戦場の生命線」を観に行ったんですけど、すごい映画でしたねぇ。さすがデル・トロ兄貴が出演するだけのことはある!
全編やり切れなさや憤りに包まれている中、時折入る笑える要素が効いていて、全体的には楽しい雰囲気もある、そんな映画でした。
基本はやるせない
楽しい要素もある映画ですが、基本はやるせないですね。
この映画に出てくる国連の官僚的な態度が実にやるせない。「和平」なんて事務レベルのことでしかなくて、実際には戦争が続行中です。何も変わりません。
そして、その終わらない戦争が、この映画の中の事象のほぼ全てを引き裂いていくのです。
肝心のロープは手に入りそうでなかなか手に入らない。ニコラの実家のシーンはあまりに痛々しい。
その結果、手に入ったロープも、結局は役に立ちません。立たせてくれない、と言った方が正確でしょう。
とにかく、ほぼ全てが上手くいかない。実にやるせない。
その全てで、戦争(民族紛争)が絡んでいるのです。
クセのある登場人物が良い
ただ、主要人物たちは実に魅力的でした。
この映画に出てくるNGOのチーム「国境なき水と衛生管理団」には色んな奴がいて、理想に燃えた優等生もいれば、かつて優等生だった、今は官僚的な紛争審査分析官になった女も帯同してくるし、チームの中心になってるのが不良オヤジ然とした奴らだったりします。それぞれにバラバラな考え方の人たちなんですが、みんな現場主義で理想と使命感に燃えているんですね。
不良然とした中で、困ってる人のために、やれることは全てやって奮闘します。そして何かやってくれそうな雰囲気がある。でも、この作品では、結果から言えば、彼らがやったことは何の役にも立ちませんでした。
それでも、やるしかない、とばかりに、やれることは全てやるんです。
そして、彼らは紛れもなく何かやってくれそうだったし、「何かやった」んです。結果が出なかったからと言って、何もやれなかった、なんて思いたくないし、結果が出なくても、何かやったと思わせてくれたのが、本作の「国境なき水と衛生管理団」だったように思います。
センス良く、気が利いている
オープニングの主要キャストのテロップの出し方がセンス良かったですねぇ。後々のシーンを考えたら、まぁグロいけど(^^;;センスは感じさせます。逆に、グロかったけど、そういった意味では、単にかっこ良いだけではなく、この映画の主題にもきっちり関わっている、うまくできたオープニングだったと思います。
困難を解決する時の伏線も実に気が利いていました。最後、国連に邪魔されて、「国境なき水と衛生管理団」みんなが挫折感に苛まれるんですけど、すぐに彼らを必要とする誰かから連絡が入ります。しかし、その矢先に雨が降り出して、この先の困難を暗示させます(しかしその感じがコメディで、彼らなら何とかしそう、という雰囲気もある)。しかししかし、その雨のおかげで「井戸の問題」が文字通り「自然と」解決するのです。
ラストのこの、好悪二転三転する感じが、なんとも、やるせないような痛快なような楽しいような無常観があるような(^^;;
結局、誰が手を下さなくても解決したように見えますが、それは違うと思います。彼らが必死になって何とかしようとしたからこそ、「自然と」解決したのだと解釈したいです。怒りが込み上げるラストの、最後の最後にユーモアと希望が溢れる。そう、解釈したいです。
映画ロック
あと、全編に流れる音楽も良かったですね。
全編にロックの名曲が流れてるのですが、というより、この映画自体がロックのようでした。
「暴力的」で何もやらない権力機構に対して反骨精神を見せ、荒々しく、愛と平和を訴える。また、エンディングに流れる「花はどこへ行った」もこの映画に実にふさわしい。