ノイタミナ枠で放送されていた「UN-GO」というアニメがあります。ざっくり言ってしまうと推理アニメなのですが、原案はなんと、あの文豪・坂口安吾! 「明治開化 安吾捕物帖」という小説が下敷きとなっています。
だから「UN-GO」なんですね。もちろん、音は「アンゴ」なんだけど、unは否定を意味する接頭語、goはもちろん「行く」。だから、行くことができない、というダブルミーニングでもあるわけです。
「行けない」。なんとなく厭世的なニュアンスもありますが、このタイトル、原作を読んでみると非常に納得がいくようなタイトルだと思います。
また「捕物帖」とありますが、舞台は明治時代。執筆されたのは昭和です。明治二十年代を舞台にして、戦後の昭和をあぶり出した、とも言われており、アニメの方はそれを下敷きに更に「戦後」となった近未来の日本を舞台としいます。
おそらく、アニメは「近未来の日本」を舞台に「現代の日本」が描かれていると思います。この「時代のダブルミーニング」も、非常に原作の精神を受け継いだものと感じられます。
ちなみに、アニメ版の主役・結城新十郎を演じるのは勝地涼! この人の声、めちゃめちゃカッコ良かったです! 前々から勝地涼大好きだったけど、この声の演技でもっと好きになった! 実写のドラマでは「あまちゃん」の前髪クネ夫など、エキセントリックな役も多く演じられていますが、今回はシリアスで頭脳明晰な探偵役を実にクールにカッコ良く演じています。また、声がめちゃカッコいい! 最初わからなくて「声優誰だろな?」と調べてみたら勝地涼! 彼だとわかった時は上がりましたねぇ。
というわけで、僕はこのアニメが大好きで、その影響で原作も読み始めたのですが、長い! 元は雑誌連載で、「続」も含めて二冊に渡って収録されているのですが、とにかく長いです。最初の巻はまだしも、二冊目の「続」が長い! 600ページを越える長さです。
だから、足掛け何年だろ? 最初の方に読んだのはすっかり忘れちゃってて(^^;; 今回は「続」の方の感想となります。最初の巻は、また後日感想を書きたいと思っております。
解説はアニメ版脚本家
この「続巻」の嬉しいところは、解説を書いているのが、なんとアニメ版の脚本家・會川昇氏!
アニメ版から入った僕としては、アニメと原作が、原作の文庫の側からも繋がりがある感じで、非常に嬉しかったです。
また、會川の、この作品、また坂口安吾に対する造詣の深さと尊敬や愛情のようなものも感じ、なんだか嬉しくなってしまいました。
もちろん、この作品、そして坂口安吾に対するトリビア的な知識も知ることができ、開設までキッチリ読んでほしい一冊だと思います。
ケレン味に満ちた設定と実在の人物のブレンド
やはり、個人的には推理小説の醍醐味はそのケレン味だと思っています。それはかの日本推理小説の巨人・江戸川乱歩も指摘する所で、推理の妙だけでは、やはり物足りない。
もっと言ってしまうと、推理がすごくてもケレン味が足りないと、極論を言ってしまえば、それは推理小説ではない、とも言えるくらい思っています。
そこへ行くと、この「続 明治開化 安吾捕物帖」はケレン味に溢れています。時代を明治に設定したのも、その当時の「現代」の昭和よりも、元号的には二つも前の明治にした方が、ケレン味を出すのに都合が良かったからなのでは…、と邪推してしまいます。やはり時代が遡ると、現実感が薄れ、それ故に異世界のような雰囲気を醸し出すこともできるからです。
この文庫での出来事で言うと、新興宗教で起こった猟奇的な事件、一族の骨肉の争いを仕掛ける男の顛末、華麗なる一族で起きる下賤な争い、裏社会のそのまた底辺に生きる者たちの力強くも欲にまみれた事件などなど。
どれもこれもケレン味に満ちています。現代でも起こりえることではありますが、時代が明治に遡ると、また違った色彩も帯び、まさにケレン味の嵐!
また、勝海舟という実在の人物が登場するのも、この小説に妙なリアリティというか、生々しさを与えているのに一役買っていると思います。
現実離れしたケレン味と生々しさ。これぞ推理小説。
推理小説の形を借りて「業」を描く
起こる事件そのものは、勧善懲悪で収まるような単純な動機のものはほぼありません。
解決の仕方も、被害者に難ありと見れば、結城新十郎は表向きには推理せず、犯人を見逃すこともあれば、悪が挫かれることなく、最近喧しい上級国民による支配を覆せない内容もあります。読み終わってスッキリするようなエピソードはそれほど多くはないかもしれません。
推理小説の魅力の一つに、難攻不落と思われる犯罪を名探偵がその明晰な頭脳を以て解明し、事件をスッキリ解決、というものがあるのだとすれば、この「続 明治開化 安吾捕物帖」には足りないかもしれません。
もっと言ってしまうと、犯罪や推理についても、それほどハタと膝を打つような、そういうものも少ないかもしれません。
思うに、この作品は純粋な推理小説というよりは、推理小説の形を借りて、「業」を描いているのではないか、と。それは個人的な人間の業でもあり、社会という一つの「生き物」の業でもある。
そういった、普遍的な「業」を、安吾は冷徹なまでの眼差しで見つめ、それを読者に見せているのではないか。そんな風に思います。
だから、読み終わった後は、ウーン、とちょっと疲れてしまうものも多かったです。そしてそれが、ドスンと重く響くものでもあるのです。
アニメ版も大好きですが、さすがにその原作となると、より重さがあるかもしれません。