カンヌ受賞作とうことで、楽しみにしていた「万引き家族」ですが、さすがに是枝裕和でしたね。素晴らしい映画だったと思います。
ただ、今までの是枝作品の中でも特にエッジが効いてる作品だと思います。
予告編
わからなくて良い
出だしから是枝裕和の得意技が出ました。説明なしで、ジワジワと波が押し寄せるように登場人物や人間関係をわからせていく。もちろん説明台詞一切なし。ここらへんが是枝作品がドキュメンタリーっぽいと言われる理由の一つだと思います。
ただ、今回はこの人たちがなぜ家族の形態を取って集まっているのか、がわかるのは物語の中盤以降になります。登場人物それぞれの事情がわかるまでのスパンが長いんです。しかもそれぞれ順番に、しかも割と曖昧な感じでわかっていきます。そして、それゆえ、ジワジワと迫ってくるものがある。
しかも、説明して尚、よくわからないことも多い。ただ、それはわからなくて良いし、わからない、というのが答えだと思うんです。人間というものは一貫性がなく、矛盾だらけでわからない。
悪いけど悪くない
例えば、メイン主役(であろう)リリー・フランキーは映画の冒頭でいきなり子供に万引きさせています。
かと思えば、とあるアパート玄関先でお腹を空かせている子供を見て不憫に思ったのでしょう、連れて帰ってご飯を食べさせます。
しかしこれは誘拐だ、やはり返そう、ということになり、女の子が元いたアパートに戻ります。
しかし、アパートの中から道に聞こえるくらいの大声で喧嘩してて、母親は、産みたくなかった、とまで言っている。これはヤバそうだ、ということでやっぱり家に連れてくる。
そしてよく見ると女の子には折檻された後がある。
こんな感じで、善人なのか悪人なのかよくわからない描写が順繰りに続いて行くんです。
でも、全体としてはとても美しく穏やかな映像、そしてドキュメントのような演技でほんわかした偽家族の描写が続いて行く。
おそらく、この家に集まってきた人たちは、そんなに悪い人ではない、ということを表しているのだと思うんです。悪いけど大悪人ではないという。
事実と真実は異なる
また、そのことが端的にわかるのが、警察の追及だと思います。
警察が読み上げるように喋る、それまでの家族のいきさつを聞くと、確かにこの家族は悪人なんです。
でも、この物語を、それこそドキュメントのように観てきた僕にはそれが違和感を感じさせ、少なくとも真実を語ってはいないと思ったんです。
それが顕著なのが池脇千鶴だと思います。池脇千鶴は確かに事実を語っているのですが、それは真実ではないと思うんです。
真実を語っているのは池脇千鶴と取調室で対決する安藤サクラの方でした。
しかし、結局真実は事実によって捻じ曲げられてしまいます。字面で判断するのと、その場の空気感では全然違う。
人間は多面的
人は非常に多面的。ある面から見ると悪人でも、ある面から見ると善人。そして、そのどちらもが本当のその人。
この物語の登場人物が見せる悪意は全て見える通りの悪意だったと思うし、善意もやっぱり見える通りの善意だったと思います。ある意味、とても難しい映画だったと思います。