「ゴールデン・リバー」という、ベネチア国際映画祭で銀熊賞を受賞した作品があるんですけど、妙に心に残った作品でありました。
最強と謳われる殺し屋兄弟と、その兄弟に狙われる二人の男が…、という映画。言ってみれば2組のロードムービーです。
映画自体は割と淡々と進んでいくスタイルなんですけど、何故だかすごくグッと来ました。
予告編
兄弟二人の微妙で絶妙な関係。
まぁ基本的には19世紀半ばの西部劇ですから、割と荒くれ者カーニバルなんですね。そういう荒くれた男たちなんですけど、その心情がですね、とても細やかに描かれていました。
荒くれてるとはいえ人間ですからね。繊細な心のひだくらいあろうというもの。そこに着目して描いてるのがギャップ萌えというか、いい感じなのではないかと。
特にシスターズ兄弟の微妙な関係を丁寧に描いていました。おそらくそこにグッとくるポイントがあったのだろうと思います。
兄貴はデカいし、強面だし、いかにもな荒くれ者の風貌なんですけど、実は非常に繊細で、実はめちゃいい人。殺し屋だけど。何と言っても将来の夢は店屋を持つことですからね。
一方の弟。イケメンで、そこら一帯を仕切ってる『提督』なる人物の信頼も厚い怖い人です。よく見りゃ目つきも鋭い。なんせ後の出演作があの「JOKER」でジョーカーを演じるホアキン・フェニックス。そりゃ目力すごいです。立場的には兄貴よりも上、所謂できる弟。しかしながら短気、酒癖が悪い、女好きと荒くれ三点セットコンプリートという危険人物。
だから、弟の方は兄貴を少し下に見てるし、兄貴は兄貴で出来る弟に嫉妬しつつも、危なっかしい弟を見守る、というスタンス。でも仕事仲間で最強コンビとも言われている。
お互いに一目置きつつ、下にも見てるという、実に微妙な関係なんですね。
しかもそれが他人の男同士じゃなくて、血の繋がった兄弟というのが微妙感に更に拍車をかけています。
この二人の旅を、時に罵り合い合いながら、時に迷惑かけ合いながら、でも戦う時は抜群のコンビネーションを見せつけつつ、二人の微妙な距離感を丁寧に描写していきます。
そういう、丁寧な描写が、グッときたんでしょうね。
ラストで、母親の元に帰って来た兄弟のシーンは特にグッときました。どんなに荒くれていても、母親にしてみりゃ子供でしかないし、やっぱり血の繋がった兄弟で、家族なんだなぁ、と。
だから、タイトルは邦題の『ゴールデン・リバー』よりも原題の『THE SITERS BROTHERS』の方がこの作品に相応しかったと思います。ちなみにシスターズとありますが、これ兄弟の苗字なんですね。ちょっとシャレも効いてるし、絶対こっちの方が良かったと思うけどなあ。
兄・イーライが繊細
そんな感じで人物を非常に丁寧に描いている今作ですが、特に兄・イーライの描き方は見事だったと思います。
実は繊細な心の持ち主であることや、弟に対する引け目のようなものを丁寧に描いていました。
野宿する時にですね、この兄貴、想いを寄せる女性からもらったスカーフを実に丁寧に畳んで、それを枕にするんです。最初見た時違和感ありまくりでしたもんw それくらいギャップがある。
あと、女郎部屋で女を買うシーンがあるんですけど、何するかって言ったら、先ずその女性に手を出しません。好きだと言ってくれ、と演技指導するんですw 例のスカーフ渡してw もっと情感込めて!みたいなこと言って。で、その女性がその通りのことすると、すごく満足して、しかも金を払おうとする。
何やってんですかねw
まぁ、非常にプラトニックラブですよね。小学生並みの純愛さw
でまた、兄弟が殺し屋になったのは、弟が父親を殺したことが始まりらしいんです。
とんでもねぇダメ親父だったらしくて、殺さなければ殺されるくらいのものらしくて。それで、本来なら自分が殺さなくちゃいけなかったって。弟をあんな風にしたのは自分だ、って言うんです(確か。ウロ覚え)。
なるほどなぁ、と合点がいきました。だって観てて、とても殺し屋やるような人じゃないんですよ、イーライは。
だから、本当は人なんか殺したくない繊細な兄の、恐らくは弟のために殺しまくる心情はいかばかりか、と思うんです。
また、イーライが目の見えなくなった化学者を看取るシーンがあるんですけど、ここも印象的でした。
化学者がイーライを連絡係の男と勘違いして語りかける時、イーライは嘘をついて話を合わせるんですえ。イーライの優しさが垣間見れるシーンなんですけど、ここも辛い役回りで。もう死ぬ間際だから、嘘でいいから安らかに行かせようと思ったんでしょうね。ここのシーンは、なんだかやるせなくて、グッと来ました。
19世紀のアメリカを活写
舞台が近世から近代へと文化が進化する時代なんですけど、新しい文明が次々に出てきて、それまでの生活が一変する時代なんですね。
そこで新文明に触れて、驚いたり喜んだりするイーライの姿が非常に無邪気で面白かったです。歯ブラシに興味津々で、いざ使ってみたら磨き方が間違っていたり、初めて水洗トイレ見て驚いて弟に報告したり、とにかく無邪気! こういうところも「繊細なイーライ」ということをよく表していたと思います。
そういった変わりゆく時代を少しずつ丁寧に描く一方、19世紀半ばの西部の混沌とした街をエネルギー溢れる描写で活写しているのも素晴らしかったです。また、オレゴンからサンフランシスコへの道中の自然描写も美しかったですね。良い画を撮ってやろう!という気概を感じました。
予告編はサギ
で、この兄弟と追われる男2人が出会うところからが物語が更に進展するのかなぁ、と思ってたんですけど、そうでもなかったのはすごく肩透かしを食らった感じでした。
ま、確かに大きく展開はするっちゃするんですけど、時間的にも短いし、何より注目された、二組の男たちが出会った後、どう人間関係的に展開するのか、というのを楽しみにしてたんですけど、割とすんなり打ち解けて…。
そこはちょっと残念なような気もするんですけど、でもそれは予告編の作り方が悪いと思います。そこを期待させる作りだったからですね。いや、これはサギでしょ。たまにこういう作りの予告編ってあるけど、これはなんとかして欲しいなぁ。