「メルカトル」を読みましたー! 今のところの最新刊です。と、言っても去年の4月に発売されたものですが。やっぱ好きですねー、長野まゆみ 。
異国情緒、というよりは「異世界情緒」で溢れている作品です。最近の長野まゆみは日本を舞台にすることが多かったですが、今回はどことなくヨーロッパです。海に張り出した東南を向いたT字型って…イタリア? 通過単位がガラナート(柘榴?)だったり、ありそでなさそな世界なんですが、「アテネ」とか「マリリン・モンロー」などの固有名詞が出てきたりして、完全な創作世界ではないです。まぁ、タイトルで「メルカトル」つってる時点で完全な創作世界ではないんですけどね(^^;; まぁ、そんな感じで、どことなくヨーロッパなんだろうなー、なんて思いつつも、そこはもはやヨーロッパではないです。長野まゆみの世界になっています。この人は現実の世界を描いても異世界になってしまいますから。で、またその「場」がすごく良くて。ホントにこの人の作る「世界」は、行ってみたいなーと、思ってしまいますね。
主人公はリュスという17歳の男の子なんですが、年齢的には最近の作品では平均的じゃないですかね(初期と比べると年齢層上がりましたねー)。清貧で誠実な好青年、加えてバカがつく程の正直者、といった感じで、そう言っちゃうと全然面白くない人物なんですが、実はかなり屈折してて、いい人、というよりは諦めちゃってる。年齢の割に大人びているのは、幼少の頃から随分辛い目に遭ってるってだけじゃなくて、そこからもう、諦めちゃってる感じです。辛い目に遭いすぎちゃったが故に希望を見出さない。見出せないんじゃない、見出さない。そういった意味では、諦念という鎧で自分を固めちゃってる人、のように思います。本音の部分は自分自身にすら、見せないし、触らせない。徹底して自己を抑えている。ただ、何と言うか、読んでいると、本音が見えない中から本音が見えてくる、感じがします。何と言うか、ハートに巻いた包帯を解いてあげたい感じ。しかもゆっくり。
大きな話の流れ的には自分探しの旅だったり、「みにくいアヒルの子」かなーって思います。そういう、割によくありがちな題材なんですが、そういう主人公の感じが、ある種「魅力的」で、それにさっきも言ったように独特の世界観が相俟って、なかなか良かったですね。あんまり殺伐としないというか、ファンタジックな感じで、読めると思います。
あと、リュスの生誕を巡る謎解き風味もあって、それも好きでしたね。結果は「やっぱり」という感じですが、それが嬉しかったりします。予想と違ったら、「何、意表突いてんだよ!」という感じになってしまうんじゃないですかねー(笑) 大掛かりなお芝居、世界劇場というか。それもまた良かったと思います。まぁ、いずれもありがちっちゃあそうなんですが、それがこの作品にはバッチリはまっていたように思います。
まぁ、長野まゆみにしてはアイドル、テレビのドッキリ企画など、下世話な要素も割に多くて、そこは若干興醒めする瞬間もありましたね(^^;; でも、それを差し引いても、僕はすごく楽しめました。