「ジュラシック・パーク」の小説を実に久々に読み直してみました。
そしたら、これがまた面白い!
読んだ当時も面白いと思ったのですが、改めて読むと更に面白かったような気がします。ある面では、この小説を原作とした、あの名作実写化映画よりも面白いかもしれません。
で、これ読み直したのが夏だったんですよね。舞台が南国やら砂漠の荒野やら暑い場所ばかりなので、暑い日が続く夏に読むにはこれがまた非常にハマりました。
それにしても、マジで今年の夏の暑さは参った…。ホント勘弁してもらいたい。
- 科学的な根拠風のリアルな設定
- 恐竜描写の不満と迫力
- リアルで臨場感溢れる描写
- 構成力がすごい
- 翻訳が素晴らしい
- マイクル・クライトンの子供嫌い
- 日本企業がまだ元気な頃
- ジョン・ハモンドという男
- 次巻、いよいよ恐竜が本格稼働!
科学的な根拠風のリアルな設定
やはりこの小説一番の肝は、科学的な根拠(正確に言うと『科学的な根拠風』ですが)に基づいた非常にリアルな恐竜の設定でしょう。
今となってはやはりちょっと古くなってしまったし、ちょいちょい間違っている箇所もあるらしいのですが、当時の最新の知識を基にして、実に細かい設定が施されています。
「ジュラシック・パーク以前・以後」と言えるくらい、この小説でガラリと一般の恐竜観が変わりましたからねぇ。それくらい、革新的な作品でした。
ただ、それらの細かい説明パート、パークの説明や、いかに恐竜を現代に蘇らせたか、の説明なんかは技術的な難しい話なので、かなり退屈でした。
しかも、色々くっちゃべってはいるんですけど、現実ではありえない話で、あくまでフィクションの、物語を作るためだけの技術の話なんですねw
だから、ぶっちゃけ、読み飛ばして構わない部分なんです。
でも、小説的には重要な部分で、科学的な裏付けがある、という演出の、大事な小道具なんです。これがあるのとないのとでは、臨場感が全然違うと思います。
逆に言うと、よくこれだけありもしない技術をそれっぽく、しかも長々と書いたもんだなぁ、と思いますw でも、これが筆力というやつかもしれないですね。
恐竜描写の不満と迫力
とはいえ、恐竜の描写に関しては不満点もあります。
この物語の主人公であるグラント博士が初めて恐竜(アパトサウルス)を目撃するシーンがあるんです。ここがですねぇ、割とあっさりなんですね。ひょっこり現れて、あっさり見る感じ。ひょっこりあっさりです。
パークの案内が本格的に進んできて、いよいよティラノサウルスが出てるぞゾ、って時も、やはり如何せん、どの恐竜もヌボーッとした感じの登場。あまりセンセーショナルではありません。
ここらへんは映画の方が上手いですねぇ。そこはさすがにハリウッド、スピルバーグといったところでしょうか。映像を使って観客を驚かせる、楽しませる、という点ではそりゃもう超が幾つも付くくらいの一流の世界ですからね。
また、逆に、映像だから迫力がある、とも言えるかもしれません。やはり文章で登場の驚きを表現するのは難しいかもしれません。そこは映像の強さかなと。
リアルで臨場感溢れる描写
また、ドキュメンタリーのような「然もありなん」なストーリーも秀逸ですねぇ。
なぜ、どうやって、恐竜を復活させることができ、恐竜の動物園を作るに至ったか、非常な迫真性を持って物語が進んでいきます。
そこには製薬会社や遺伝子を専門とする科学者の置かれた状況など、むしろ考古学以外のフィールドから恐竜、そしてパークに対するアプローチが行われます。ここらへんが非常にスリリングなんですよね。
で、パークを作ろうとしているInGen社が謎の行動を繰り返し、政府から目を付けられている、ってのもまた陰謀論サスペンスとでも言える展開で胸熱です。
更に、ジュラシック・パークのライバル企業が出てきたり、そこが産業スパイを潜り込ませたり、ここらへんはまるでビジネス小説のようですらあります。
恐竜の動物園を作るだけでも面白いのに、そこに絡んでくる敵役を作り、物語に奥行きを与え、トラブルの種を更に作っていきます。
こういうリアルで細かい描写は物語世界に入りやすく、現実感があって実に読みごたえがありますね。
リアルで臨場感溢れる描写、という点ではコップクラフトもそんな感じでしたね。こちらはラノベなのですが、何か共通するものを感じます。
構成力がすごい
で、そういうのをテンポ良くパーッと見せちゃうんじゃなくて、小出しにするんですよね。
ジュラシック・パーク計画が徐々に明らかになっていくのは、ライバル社の会議の中なんです。だから、外堀はなんとなく調べはついているんだけど、その中身、詳細が今ひとつ霧を透かしてみるような、この感じ!w
読者はもういい加減、恐竜を蘇らせることに成功したことに気付いているんですけど、作者もそのことをわかりつつ、あえてじらしている。この感じが実に上手い。
しかもそういうストーリーを、細かい描写、物語世界の「事実」を丹念に、効果的に積み重ねていく、その構成がすごいです。
翻訳が素晴らしい
また、これだけ素晴らしい原作なのですが、これを日本語にしてくれた翻訳が素晴らしい。
実に読みやすい日本語で、「翻訳的表現」がほぼ見当たらなかったです。あったとしても、それは「現地感」を出すための、敢えての表現であると思うし、実際効果的だとも思います。
この翻訳でなければ、これだけ楽しめなかったかもしれません。
そして本書の名翻訳は酒井昭伸さんによるもの。酒井昭伸さん、素晴らしい翻訳をありがとうございますm(_ _)m
やはり翻訳って、重要ですね。
マイクル・クライトンの子供嫌い
あと、マイクル・クライトン、子供嫌いですねーw
恐竜の餌食に遭うのは、前半は大体全て子供、或いは十代と思しき若者なんです。それらの犠牲者がですねー、またかなり残虐にやられるんですね。そこまでするぅー?!ってなくらい、結構残虐にやられるんです。
これは子供が嫌いであることの表れであるように思うんですけど、どうでしょう?
あとはですねー、レックスっていう小学生の、3、4年生くらいの女の子が出てくるんですけど、これが壊滅的に可愛くないw もう、ホンット、クソ生意気なクソガキって感じで。しかも、開いた口が塞がらないくらいに頭が悪い。空気も読めない。足を引っ張る。もう、最低。
で、このクソガキにはティムというお兄さんがいるのですが、この子良い子! 本当に聡明で優しくて、もう天使のような子ですね。ちなみに下巻で大活躍します。そしてその間、クソの妹は足を引っ張りますw
実際、このクソ妹は案の定評判が悪かったらしくて、映画化される時は「ティムの可愛いお姉さん」というキャラクターに変更されています。ここら辺のバランス感覚はさすがスピルバーグといったところですね。
映画版のレックスは、超大好きです。
日本企業がまだ元気な頃
あと、隔世の感が強くあったのは、日本企業の役どころですかねー。
パークなどの出資者にちょいちょい日本企業が出てるくるんですよ。というのも、企業の体力的に莫大な金を支出できるのはアメリカの企業では無理、それができるのは日本企業くらい、という理由で。
時代を感じますねぇーw
今なら中国企業になるんでしょうね。昔の日本は元気だったのだなぁ、とこんなところでも痛感させられてしまいます。
ジョン・ハモンドという男
ジュラシックパークを作ろう!とそもそも言い出したのはInGen社の会長であるジョン・ハモンドというお爺さんです。この人が個人的にはなかなか興味深い人で。
このジョン・ハモンド、非常に夢見がちな男で、ホントに財閥の長なのか?と思うくらい夢見る翁です。
もう、やる事なす事夢先行で、あまりにもずさんすぎます。そこが、このパークが破綻することを濃厚に予期させる作りでもあるんですけど。
また一方、旗振り役は夢見がちなくらいでないとダメなのかもしれない、とも思いました。細かいことはナンバー2に任せれば良いかと。そう考えると、恐竜の動物園作る奴はこんな奴、っていう人物造形もしっかりしているとも言えるかもしれません。
ハモンドはやはり、ある面では愚鈍なトップ、といった印象ですねぇ。危険を修正できる場面は何度かあったんですけど、その全てを自らの理想や夢のためにゴリ押しで拒否。避けられるリスクを全て受け入れてしまった感じです。
こうだといいなぁ、と思うことをそのまま自分の中の現実にすりかえてしまう性向があるのでしょう。
おそらく、ハモンドはカリスマ的経営者なんだろうと思います。
多分、普通に接する分には魅力的で、専門知識はないながら、弁舌は巧みで、行動力がある。しかしながら、全ては自分のためで、人を道具としてしか見ることができない。そういった孤独な人なのかもしれない。だから、自分の夢に固執する。
言ってみれば、カリスマ気質満載な人、っていう感じかもしれません。
次巻、いよいよ恐竜が本格稼働!
物語の方はですね、後半も最後の方になると、いよいよ産業スパイが動き出したり、卵を産まないはずのパークの恐竜が実は繁殖していたり、ヴェロキラプトルが船に密航して島の外に出そうになったりと、急激に動き出していきます。
設定の細かな説明など、停滞しているところは停滞するけど、動き出す時は様々なものが一気に動き出す。これが緩急というやつなのでしょう。くぅー! 来たぁー!って感じでテンションも上がります。
そして、パークは本格的に破綻し始め、恐竜が野に放たれます。主役とも言えるティラノサウルスが檻を破ってからのシーンは非常に迫力がありました。
映画並みに手に汗握ってしまいます。ここらへんの描写力はさすがですね。
最初の、ヌボーッとした感じと違い、いよいよ本域といった感じ。やはり囲を破って野生に戻ったからなのか、イキの良さが違う感じです。一気に物語の勢いに加速がついて、こうご期待!といった感じで次巻に続いていくのです。
ただ、最後のグロシーンは本当やめてもらいたかった。