『YESTERDAY』という映画がありまして。ビートルズの公式ツイッターから情報が流れてきた時から、ビートルマニアなら絶対観なくてはいけない映画だ、と思っていたんですけど、実際観てみたらビートルマニアなら絶対観なくてはいけない映画でしたね。
もっと言ってしまうと、ビートルマニア以外でも観た方がいい映画である、と思うくらい良い映画でしたので、お勧めします! みなさん、是非!
ビートルズとは音楽業界のチートである
作中、ビートルズの楽曲がスゲエぞ、っていう様々な描写がね、そりゃもう当然のようにあるんですけど、思うに、ビートルズ、特にポールですね、その作曲能力はチートなんだな、ってことに気付きましたw もう全然違う。反則級ですね。
この「ビートルズすげえぞ」表現でたまげたのは、エド・シーランが本人役で、結構な尺出てたことですね。しかも役所は「ビートルズの楽曲に叶わなかった現代のヒットメーカー」(^^;; よく引き受けたなこの役所!
でもさすがですね。劇中で歌う楽曲がまた良い曲なんですよね。逆に解釈すれば、エド・シーラン、相当自分に自信ありますね。じゃなきゃ、こういう役どころは引き受けないと思います。或いはビートルズの超ファンか。
そんな感じでね、ビートルズに対するリスペクトが溢れているわけなんですが、とはいえ、です。仮に実際に「新曲として」あの時の楽曲をそのまま現代に持ってきても60年代のようなセンセーショナルなヒットにはならないと思います。
やっぱり時代性というのは大きいと思うんですよね。作中のアルバム名の会議のシーンではそれを象徴していました。今の時代なら、公の商品にするにはちょっと厳しい表現や、今となっては古臭い言い回しになってしまったものもありますし。
何よりビートルズ(に限らずスターになった人たちは皆)は時代に則して生き、時代を作っていったんです。だから、ビートルズは60年代のあの時代だからこそ成立したんです。もちろん、それは製作者側も充分承知で、敢えて「もしもの世界」として作っているんですけどね。
あと、売り上げ一点にこだわるレコード会社は、だから名曲が誕生しない、という世相をも反映しているように思いました。面白いもの、良いものを作るのではなく、全てがマーケティングなんですよね。またその結果が更にマーケティングを呼ぶように思います。
ビートルズの楽曲という点では、選曲も絶妙です。その時の主人公の気持ちや状況や未来を示唆している、上手い使い方でした。この辺は、ビートルズの曲を知ってると、更に深く楽しめるかもしれません。ちなみに劇中ではさんざんこき下ろされた主人公作曲の「サマー・ソング」は個人的には良い曲だと思うんですけどねぇ。劇中でも主人公の友人達はこの曲を非常に気に入っていました。
ジョンの登場
また、ジョンが登場するんですよ! この登場は嬉しかったなぁ。
この「もしもの世界」では現在78歳。主人公の「よくぞここまで…」と感極まる台詞は観客も同じ気持ちだったろうし、そうあってくれれば…と悔しい気持ちもありましたねぇ。なんだか非常に泣けてしまいました。
それに、ジョンの登場は物語上もラストに繋がる非常に重要なシーンだったんですよ。こういう登場の仕方は製作者がジョンやビートルズを大切にしている証のように思えます。
主人公の恋愛が煮え切らなかった理由
この映画観てて思ったのは、「勝ち組」とか「枠」とかにこだわるところが多々ありました。これは世相を反映しているんでしょうかねぇ。
映画とか、或いは漫画とかが普及していったことの功罪なのかもしれません。そういうエンタメ作品にはどうしたって役どころがあるじゃないですか。それを現実世界に当てはめちゃって、自分の枠はこれで、自分のキャラはこう、みたいな。そういう、自分を物語の世界の登場人物に当てはめて、自分の役割を限定する、ってのはあるんでしょうかね。
でも、ジョンは、勝ち組なんてのは、幸せであればそれで勝ち組なんだ、と言います。ジョンはここでも主人公を悟すんです。男の幸せは好きな女に愛してると伝えることだ、と言うんですけど、なるほどなぁ、と思いました。俺なんか言わせてすらもらえなかった…、話が逸れましたね。戻しましょう。
またジョンは主人公に、嘘をついてはいけない、と全てお見通しのような発言をするんです。思えば、なんで主人公は通常の映画なら結ばれるシーンを二回もフイにしたのか、観ててちょっと不自然にすら思えたんですね。でも、この台詞でがわかったような気がしました。
主人公がビートルズの曲で売れているうちは、嘘をついているわけだから、好きな人とは結ばれようがないんです。好きとかビートルズとか全てを正直に打ち明けて、初めて結ばれるんです。自分を偽っているうちは、結ばれる資格はないんですね。
小さな笑いを取りに行く!
細かいところもよく気を配っていて、そこがめちゃ面白かったです。
例えば、このビートルズがいない世界ではストーンズはいるんです。でも、OASISはいないんですw これは分かる人にはめちゃよくわかるし、笑えます。そりゃ、そうなるよなw
また、なくなったのはビートルズだけじゃないんですねぇ。コカ・コーラやタバコもなくなっていました。「主要なもの」は軒並みなくなっている、という設定なのかもしれませんね。そういうところも良くて、ビートルズはなくなった主要なものの一つでしかないんです。逆に言うと、ビートルズは「主要なものの一つ」であったんですね。
そして個人的に超気に入ったのは主人公の家族! 彼ら、特にお父さんが出てくるシーンは必ず笑えます。特に初めて「Let It Be」を聴かせるシーンは、もうホント最高!
あと、細かい点で言うと、主人公が最初に「Yesterday」を聴かせるシーンで、みんなが絶賛する中、デカいバカな奴がいて、こいつが「ちょっと甘すぎるけどな」と言ったのは秀逸でしたねぇ。バカなようでいて、急所を突いてくるというか。この感想は、この曲に対するビートルズの他のメンバーの当初の感想だったんですね。
他にもファンならニヤリとしてしまう台詞多数あって、そんな感じでファンにはたまらないビートルズ映画がまた一つ誕生したと言えるでしょう。